きもの探訪

常に変化しながら、結城紬の良さを次世代へ継承
産地問屋「奥順」・奥澤 順之さん

奥澤順之さん

現在も格子戸の紬問屋や蔵造りの建物が軒を連ね、城下町として栄えた町並みが色濃く残る茨城県結城市。そんな風情漂う町の一角に、国の登録有形文化財にも指定されている店舗や見世蔵を持つ産地問屋「奥順」がある。1907年(明治40年)創業の老舗でありながら2006年に結城紬の総合ミュージアム『つむぎの館』をオープンするなど、新たな挑戦を続ける奥順について、取締役専務・奥澤順之(よりゆき)さんに伺った。

写真/水野嘉之

Part1「奥順のこだわり」

奥順が代々続きますように、の願いを込めて
長男には「順」の一文字を

奥澤順之さんというお名前を見て、ピンときた方もいらっしゃるのではないだろうか。奥順を経営する奥澤家では、創業者である初代・奥澤順一氏以来、代々ご長男に「順」という字がつけられるという。奥澤さんは初代の曽孫にあたる。
「私の息子の名前にも『順』の一字をもらいました。苗字に「奥」、名前に「順」がつけられることで、奥順が代々続きますようにといった願いが込められています」
けれど奥澤さんは、大学卒業後すぐに家業を継がず、瀬戸(愛知県)にある陶磁器の会社に就職。
「きものと同じ伝統工芸の世界に触れることで、広い視野で奥順のことを考えられるようになると思ったんです。開発に携わったり、その会社がちょうど六本木ミッドタウンに店舗を構えた時でもあったので、そこで接客も経験しました」
身近で職人さんを見て、ものづくりの大切さや素晴らしさなどを学んだ奥澤さんは、青山の呉服店で一年間の修業を経たのち奥順に入社。4年目を迎える今も、きものについて日々勉強中だという。

男物の結城紬の新作ポスターに起用された奥澤さん。
「モデルになってもらえませんかと依頼されたんです。業界発展のために、できることは何でもやります(笑)」

結城紬はすべて手作り
だからこそ産地の職人さんを大事にする

奥澤順之さん

大正初期に建てられた、国の登録有形文化財にも指定されている奥順の店舗にて。 「昔は月〜金曜まで毎日仕入れしていて、外に機屋さんが並ぶほどでした。今もここで火曜と金曜に仕入れをおこなっています」

100年以上の歴史を持つ奥順は、創業以来、産地問屋として結城紬の発展に寄与してきた。
「産地問屋というのは商品を企画・デザインし、機屋さんに仕事を発注、商品として仕上げて出荷までおこなっています。だから、織り上がったものを見る目も養わないといけない。それがプロフェッショナルに徹している職人さんへの礼儀だと考えています」
結城紬はすべて手作業でおこなわれるからこそ、奥順では産地の作り手さんをとても大切にしている。職人さんが安心してものづくりに専念できるよう、発注した品物はすべて買い取るそうだ。
今回、奥順ゆかりの機屋さんのひとつである「須藤商店」にご案内いただき、実際に職人さんたちの作業を見学させてもらったが、どの工程も気が遠くなるような根気と熟練技が必要なものばかりで圧倒させられた。
「結城紬はすべて手作業」という一言では片付けられない伝統の重みがそこにはあり、結城紬の価値が高いことにも至極納得。機会があれば、ぜひ皆さんも自分の目でたしかめてみてほしい。

お客様がすでに購入した反物だからこそ
最後の仕上げは自社でおこなう

奥順には「湯通し(糊抜き)」「洗い張り」という作業をおこなう「奥順整理工場」がある。結城紬の糸はとても繊細で、そのまま織るのが難しいので、小麦粉で糊付けをしているのだ。生地のごわつきをなくすために、きものに仕立てる前に生地をお湯につけて糊を抜き、独特のやわらかさと風合いに戻すという。
「昔は自分たちで湯通ししていた産地問屋もあったんですけど、今はどこも外部の糊抜き屋さんに出しているようです。ただ、湯通しする反物はすでにお客様がお買い上げになっているもの。責任をもってお届けしたいから、奥順ではこれからも最後の仕上げは社内でしっかりとおこなっていきます」
奥順を取材していて気づいたのは、とにかく若いスタッフが多いということ。きもの業界にあって、これは特筆すべきことだろう。「100年の間、奥順は変化しながら結城紬の良さを伝えてきました。
これからも変化しながら、僕たち若いスタッフが中心となって、次世代へと継承していきたいと思います」

糊付けする職人や季節によって糊の固さが違うため、指先の感覚で糊の加減を見極めて、お湯につける時間を決める。


Part2では、奥順が業界に吹き込んだ新しい風のひとつ『つむぎの館』について、詳しくご紹介します。

風にたなびく、湯通しした反物。雨の多い時期なども、必ず一度は天日干しするという。


奥澤順之 (おくざわ よりゆき)

1982年生まれ。奥順株式会社・奥澤 順の長男として生まれる。
2007年私立玉川学園大学 卒業(在籍中イギリスに1年間留学)後、株式会社NAGAE入社。店長代理として店舗運営、得意先営業、瀬戸の工場にて生産管理責任者を経験し、営業ではザ・リッツ・カールトン東京の客室食器のリニューアルを担当する。2010年 修業のため青山に店舗を構える呉服店、有限会社ゑり華に一年間勤務。2011年 奥順株式会社入社。1年間会社の各部署にて研修を受け、現在は営業として精力的に活動中。2013年 同社代表取締役専務に就任。

バックナンバー