きもの探訪

YUZEN Nakamachi World 加賀友禅作家・中町博志の世界

自然を、単なる「景色」としてではなく、「生の営み」として感じとる。
そのピークを直感して、描いていく…

聞き手/藤原久美子(第7回きものブリリアンツ・プリンセス部門グランプリ/二代ミス加賀友禅)
写真・文/佐藤正樹(小袖総編集長)

ーーー 中町博志にとっての創作とは何か?

自ら感じるものを描ききること。

加賀友禅に限ったことではないですが、きものの多くは、過去の文様、図案をもとに作られています。確かに、芸術は多くの場合、模倣からはじまりますので、わたしも最初はいろいろマネしました。でも、できたものが、情けないくらい、つまらない。その時、ハッと気がついたんです。サインを入れる(署名をする)なら、それはオリジナルでなくてはいけないと…。一部の作家は、過去のものをアレンジしただけで、「創作」としているように思います。それがダメだとは言えませんが、わたしは自分で感じるものしか描かないし、マネを一切しません。だからこそ心から「楽しい」と感じながら創作ができると実感します。

ーーー チューリップが上を向いて開いてる?

もっとも美しいと感じた瞬間だから。

ここの仕事場で、今、まさに描いているわけですが、でも気持ちは、青春時代に、富山県砺波市(となみし)のチューリップ畑を歩いている時、場所にあります。畑の畝(うね)の間を歩きながら、その視線で見るチューリップは、このように見えました。つぼみの状態ではなく、花が開き、これから球根が育てるために、花びらが地面に落ちる瞬間を描いています。太陽という天のエネルギー、土という地のエネルギーがせめぎ合い、もっとも自然の営みを感じる、この瞬間が好きなんです。つまり、つぼみでは、わたしのチューリップではないんです。

ーーー 創作の根底にある美学を感じます。

ネットでなんでも見られる世界だからこそ…。

ちょうど今、いつも、そこに座っている弟子を、蓮根畑に行って描いてこいと命じて、出しています。今、蓮根畑は「蓮の花」もなく、みどりも美しくはありません。なぜ、今なのか?水、土に埋もれている蓮根畑のそばに寄り添ってみて、なにを感じるか、なにが見えるか、そしてどう描くか?いまどき、インターネットでなんでも見られます。美しい蓮の花の写真は、やまほど見られます。スケッチをしなくなった、見てなくても描けるからです。およそ、正反対のことを、見ないと真実は見えません。華やかな時期だけでなく、その真逆な時も見て、感じること、それと人と違う視点に立つことも大事だと思います。

ーーー 描くことのきっかけは?動機は?

もてたい、勉強したくないから友禅へ。

小さな村で育って、だから小学校も小さくて、国語と図工の先生がいっしょだったんですが、その先生が国語の時間に「おまえは外に行って絵でも描いてこい」という。わたしが勉強が苦手で、この子は教室の中にいるより…と思ったんでしょうね。それがきっかけと言えるかもしれません。その後、集団就職で東京で働くことを決め、選んだ会社が「東京美術印刷」という会社。理由は「美術」という名前がついているから。すごい田舎からいきなり東京に来て、これが楽しくてしょうがない。女性にもてるために絵を描いていましたね。当時は…。結局、故郷に帰ることになったのですが、あらためて勉強もしたくないという理由で、加賀友禅の世界へ入ったのが、実情です。これは、まだ誰にも話したことはありませんけどね。自分で述べるのも変かもしれませんが、元来、我慢強く、働くことが好きなので、今も楽しくてしょうがないです。

取材の様子を動画でご覧いただけます

取材後記/過去、ご面識をいただいていたこと、そして、なにより先生の気さくさで、すんなり取材に入り、お話を聞くことができました。中町先生、ありがとうごさいました。創作にまつわることをいろいろお聞きすると、やはり作品としての興味がわいてきます。いつか、中町先生の作品が似合う女性になりたいです。(藤原久美子)

中町博志

中町博志

・加賀友禅師 直江良三氏に師事
・石川県指定無形文化財 加賀友禅技術保持者(現在認定者は10名、通称「十人衆」)
・通産産業大臣認定「伝統工芸士」